17.「右下勢独立」(ヨウシヤーシードゥリー)
動作順序 図137~138
体 体を左に回す。
足 右足先を前におろし、つぎに左足踵を少しあげて内側に入れて着地する。それにつれて右足踵が外側にまわる。
手 右手は左に弧を描いて、顔の前を通り左肩の前に達する。掌心を斜め下に向ける。左手は左斜め前方で、鉤手に変える。
動作要領 図137
左膝をゆるめて曲げ、上体を下に沈めるのにあわせて、右足を下におろしながら、わずかに前に足先を着地する。
左手首の座腕をゆるめる。
注意事項 図137
右足が着地する位置が前すぎたり、近すぎたりしないよう注意する。
前すぎると、次の体を回す動作で、重心の移動、方向転換がスムーズに行えない。
近すぎると次の体を回す動作で、左踵が右足にぶつかる。
動作順序 図138
目 釣手を見る。
動作要領 図138
右足先にわずかに体重を移す。
同時に、左足の足先を軸にして踵を逆時計回りに回し入れ、体を左に回す。左足先が起勢の方向に向かって左斜め約30°に向かうように向け、踵を着地し、直ちに全体重を左足に移す。
右足は、体が左に回るのにつれて、膝が左に回る。
左手は、体が回るのにあわせて、左後方、上にあげてゆき、左肩の前、左斜め約30~45°の方向で鉤手を作る。
右手は顔の前から左に弧を描いて、左前腕部の内側にそえて、掌心を斜め下に向ける。
目は左鉤手の前方を見る。
注意事項 図138
体を回す動きの流れが切れないように、右足先を軸にして、スムーズに転身する。
右足先を着地した後、体を回す動作が終わるまで、姿勢が上下に起伏しないよう注意する。
右足は、体を回した後、次に足を横に伸ばし出す動作の準備として、自然に引きあげて左足のそばに寄せてもよい。
動作順序 図139~140
図132~133と同じ。但し、左右の動作が逆になる。
動作要領 図139~143
図132~136の左下勢独立と同様の要領で、左右を逆に行う。
下勢は、股関節の柔軟性と脚部の筋力が備っていないと正確な動作が行えず、運動能力的に難度の高い動作である。
図130~133の「動作要領」では、動作の手順と要領を詳しく述べたが、初級者の段階で、これらすべてを要求することはできない。
次のことに注意して行うことが求められる。
1)筋力と柔軟性がまだ十分でない人や、下肢に故障がある人は、図132で無理に低い姿勢になったり、左足を横に大きく出し過ぎないこと。
左足は、右足で体重を無理なくコントロールできる範囲で伸ばし出し、上体の中正が保てる範囲内で動作を行うことを心掛ける。
2)運動能力が向上した段階に応じて、少しづつ、各動作の手順を正確に行うよう心掛ける。
図133で姿勢は多少高くても、できるだけ右膝を内側に入れないよう心掛ける。
3)一定の段階になったら、各動作をスムーズにつなげ、協調させて行う。
一図132で左足を横に伸ばし出すのは、右膝を曲げてしゃがみ込んだ後ではじめて、突然に出すのではなく、右足で徐々に低くなりながら、ゆっくりと左足を出すこと。
一左手の動きは、図130~131で右に弧を描き、図132で胸前におろし、図133でまず腹前におろし、つづいて、体を左に回す動作にあわせて、左脚に沿って伸ばし出す。左手が、全体として左から右上、下、左前方に大きな弧線を描いて、途中で途切れることなく滑らかに行えるようにする。
動作順序 図141~143
図134~136と同じ。但し、左右の動作が逆になる。
動作要領
左右の下勢独立は、太極拳の最も低い姿勢である「下勢」と、片足で立ちあがる「独立」が組み合わされ、低→高の変化が特徴的な動作である。
本来、相手の足下にもぐり込み、立ちあがりながら下から上に、伸ばした手ではらいあげ、膝を用い、左右の手の一方ではらいさげ、もう一方の手ではねあげて相手のバランスを崩すことなどを想定して組み合わされた動作である。
太極拳の「相連不断」の要求からも、一連の動作が途切れてはならないものであるが、図134(図141)で立ちあがった時に、動作の流れが停止したり、停滞することがよく見受けられる。
必ず、連貫して次の図135(図142)の動作に移行しなければならない。
動作が途切れる原因として、前の下勢の姿勢で両脚に過度な負担をかけたために、この動作で息継ぎをしたいという傾向がある。
無理からぬ面もあるが、太極拳の連貫性を損なう要素は避けなければならない。
また、図134(図141)は下肢が弓歩の姿勢をとるため、心理的に、動作の区切りがついたもの(弓歩=歩型=定式)と誤解していることも考えられる。
上述したように、下勢独立は一連の動作である。弓歩の姿勢をとっていても、動作の完了=定式ではないことを認識すべきである。
図134(図141)は低→高への切り替えの節目であり、次の動作から、手法(両手の運行路線)、身法(体の使い方)が転換される。
そのため、この図134(図141)で動作の流れが止まるが、「勢断勁不断、勁断意不断」(動作が止まっても勁は途切れず、勁が止まっても意は途切れず)の要求に基づき、次の動作につないでゆかなければならない。
独立の動作は手法、身法、腿法を密接に組み合わせて協調させ、今身で一つの動きを行うようにしなければならない。
すなわち、図135~136の動作では、《①左足先を外に開き、左手をおろしはじめ、右釣手をゆるめて前方に振り出し始め、右踵を持ちあげる。
②つづけて、左手をおろし、右手を上にあげる。右足を寄せ、膝を前方に振り出す。③右手を顔の前にはねあげ、左手で下を押さえ、左足で立ちあがり、右膝を持ちあげる》。
この一連の動作はすべて、少しずつ体を左に回す動作を伴って行う。
特に、最後の③では、腰を軸にして、しっかりと体を回すことと、左膝を伸して立ちあがることを組み合わせて、両手に勁力を伝えるのである。