1 基本姿勢と基本動作の要領

第2章 24式太極拳の学び方へ
本章では、24式 太極拳の各動作に含まれている主な姿勢 (手型、歩型、身型)と 動作 (手法、歩法、 腿法、眼法等)の基本的な要領を述べる。
24式太極拳の動作にたいする各々の要求は、基本的には他の大極拳 (48式 、88式 、42式 総合太極拳、 楊式太極拳等)と 同じであるが、幾つかの手法 (貫 拳、搬拳等)は 、24式 太極拳 と他の太極拳では動作が若干異なるものもある。

本書ではあくまで24式太極拳動作に基づいて説明 している。 主な手型、手法、歩型、歩法等が24式太極拳のどの動作 に含まれているかを、それぞれの項目の最後に動作名称をゴチック文字で示している。

手法の分類法は必ずしも一定していない (例えば、"分手"と "分掌"が同じことを意味した り、 あるいは、 "分掌"に野馬分業の動作を含む場合もあったりする)。

本書では、一応、1991年 版中国全国太極拳選手権大会の競技 ルールで分類されているものに従って、手法の項目を定めた。 読者諸氏は分類法の適否 よりも、太極拳動作の基本要項を把握することに精力を集中されたい。

 

1.手 型 :

掌 (ヂ ャン);

五指をわずかにゆるめて曲げ、自然に開き、 掌心 (手 のひら)は丸みを持たせ (掌 心を凹面 状に保つ)、 虎口 (親 指  と人差指の間)を 弧形を保つように開き、五指と手首をこわばらせない。 推掌や按掌の時に、勁力は掌根に達する

(図 1)。

 

2)拳(チュエン);

五指を曲げて握 り込み、拳面を平らにし、 親指で人差指と中指の中節骨 (第 2関節と第3関節の間)を押さえる。
拳は強く握らないようにするが、握りが弱過ぎてもいけない。 また、手首を硬直させず、貫拳や搬拳の時も手 首を曲
げたり、硬直させない。
拳面、拳背、拳輪―尺骨の三つの面を概ね平らに保つ

(図 2)。

 

3)鉤手 (コウショウ);

五指の指先を自然に伸ばし、つまむように揃える。手首をゆるめて曲げる。鉤手を作る時、手首 を充分に曲げて、勁力が鉤頂 または釣先に達するようにするが、手首をこわばらせてもいけない。

 

(図 3)。

勁力について その① 
勁力(けいりょく)は、武術の動作の目的に沿って意識的に体の中から導き出される力の総称であるこ武術の種目によって要求される勁力の質`量は異なり、長拳などでは軽快、迅速な動作で切れ味の鋭い力を発揮することが要求され、南拳では重く、剛直で爆発するような力を発揮することが求められる。太極拳では一一般に、柔らかく弾力性のある力を用い、発する。

1)勁力は、身体各部の動きを合理的に協調させて、動作目的に沿った質量の力を運び、発することである。
体の一部分の筋肉や骨格だけを用いて硬張した力を発したり、反射運動的に力を出すことは、勁力を用いていることにならない。また、いつも最大限大きな力を発することが、適切な勁力の運用とは言えず、動作の目的に沿った質量の力を過不足なく発揮することが求められる。

従って、勁力を適切、順当に発し、用いることができるかどうかは、身体各部の動作を合理的に、動作の目的に合うように協調をさせること、そして、その動作を導く意識の働きが大いに関係する。

2)勁力は、力が用いられ、発せられる状態によって様々に分類される。強く、はっきりした力を「明勁」と言い、それにたいして柔らかく、相手の動きに対応して変化できる含みを持ちながら働く力を「暗勁」と言う。力の働く距離が比較的長いものを「長勁」、 それにたいして短い距離で働く力を「寸勁」と言ったりする。また、自分が力を発するのではな
く、相手に触れて、相手の力の質量や方向を察知することを「聴勁」、「憶勁」などと言い、相手の力を外して、相手を無力化することを「化勁」と言ったりする。
いずれにしても、力の働く路線と方向および力の働く部位=力点を正確に把握して行わなければならない。

3)陳式太極拳や42式総合太極拳の一部の動作では、はっきりとした大きな力を爆発的に発する動作があり、これを「発力動作」あるいは「発勁動作」と言う。これにたいして、24式太極拳や楊式太極拳系統の動作の大部分は柔らかく、相手の動きに対応して変化できる含みを持ちながら動く「暗勁」を用いる。
これらの動作は、本書では;
ー  一つの動作の完成時(定式)には最も合理的に勁力を発することができる姿勢を作るが、実際には発力しないで、次の動作に移る。この場合、定式の時に、拳面や拳根に「勁力が達する」、「勁力は…にある」という表現で記述している。
定式以外の途中動作でも、腕や掌や拳で力を伝え、勁力を運ぶ動作を行うが、この場合、「勁力は….にある」、「勁力は…から~に移る」等の表現で記述している。

2.手 法

片手または両手の掌で前方に推し出す。指先を上に向け、指先の高さは目より高くしない。勁力は掌根に達する。
(左右楼膝拗歩 、左右倒巻肱、左右攪雀尾、高探馬、左右穿校 、閃通膏、如封似閉)

2)楼掌 (ローヂャン);

掌心を下または斜め下に向け、腕で膝や腰の前を弧を描いてはらう。勁力は前腕部または掌の外側にある。
(左右楼膝拗歩 、海底針)

3)抱掌 (パオヂャン);

体の前で両手の掌心 を上下で向かい合わせ、両腕を弧形にしてボールを抱えるようにする。肩をゆるめて沈め、両脇をゆるめ、肘を下げる。
(左 右野馬分髪 、自鶴亮翅、左右撹雀尾、左右穿校)

4)分掌 (フェンヂャン):

肘を曲げて両腕 を体の前で交差させた後、両腕を前後または左右に分け開く。分け開いた腕は、肘を曲げて弧形を保つ。
勁力は、分け開く時は前腕部の上側または外側にあり、徐々に移動 して、手首に移り、 掌根に達する。

(右蹬脚、転身左蹬脚)

5)雲掌 (ユンヂャン)

両掌を、体の前で立円を描いて回す。掌が顔の前や腹の前を通るときは掌心を内側に向ける。
上の掌の指先は目の高さを越えず、下の掌の指先は股より下げない。両腕は常に弧形を保つ。
掌が上の時は顔面からやや離し、下の時は腹部にやや近づける。
両腕を孤形に保ち「折腕」(手首が折れた状態)にしない。
上の掌が顔の前を通り掌心を徐々に内旋させながら内から外に向けてはらい出す時、勁力は前腕部の上側(撓骨側)にあり、徐々に移動して前腕部外側 (尺 骨側)に移り、手首に移り、掌根に達する。
下の掌が腹の前を通り、掌心を徐々に外旋させながら外から内にはらう時、勁力は前腕部の内側または上側(撓骨側) にある。

(単鞭 雲手)

6)穿掌 (チュアンヂャン):

片方の腕を胸前で曲げて掌心を下に向け、もう一方の掌を掌心を上に向けて、曲げた腕の  前腕部の上に指先から突き出す。24式太極拳では、高探馬から右澄脚に移るつなぎの動作に含まれる手法。

また、下勢独立の動作での穿掌は、指先を仆腿 (伸ばしている脚)の大腿部内側に沿わせて前に突き出す。勁力は指先にある。 (右蹟脚の開始動作、左右下勢独立)

7)挑掌 (ティヤオヂャン);

手首 を曲げて立掌にしなが ら下から上にはね あげてゆく。 完成時には、腋をゆるめ、肘を下げて腕を弧形に保ち、指先は目の高さにする。はね上げる時、勁力は前腕部の上側 (梼骨側)と手首にある。

(左右下勢独立)

8)架掌 (ジ ャーデャン);

腕を内旋 させて、下から上に向けて支えるようにあげる。肩を沈め、肘をさげて、腕は弧 を保ち、掌心を外側で斜め上に向ける。勁力は 掌根と前腕部 外1則 (尺骨側)に ある。

9)挿掌 (チ ャーヂャン);

掌 を上から斜め前方に向けて挿 し込む。掌心を横に向けて、指先を斜め前方、下に向ける。 勁力は指先にある。

(海底針)

10)開掌 (ランヂャン)

掌を外側から内側 に、下から上に弧を描いて運び、立掌にして体の前方をはらう。掌心 を横に向け、指先を斜め上に向ける。勁力は掌根にある。 「欄」が外側から内側にはらう手法であるの にたいして、「封 (フォン)」 は内側から外手の 甲側の手首で防ぐ手法 (如封似閉)である。 (転身搬欄極の左掌)

11)貫拳 (グゥアンチュエン); 両拳を体の横、下から、腕を内旋させて外側から内側 に、前方、上に打ち出す。肩を沈め、 肘を下げて、両腕は弧形 を保つ。貫拳の完成時には、両拳の間の距離は、頭の幅で、両拳の高さは耳の高 さとし、拳眼を斜め下に向ける。 勁力は拳面にある。 腕を内旋させる時、手首も回すが、手首をこねまわすこと (「腕花」 ワンホアヽをしないよう に特に注意を要する。
( 双峰貫耳)

12)搬拳 (バ ンチュエン〕 ;

腕を曲げて拳心を下に向けた状態から、拳が 体の前を通って、腕を外旋させて立円を描 きな がら体の前方に、下に向けて打 ち出し、はらい 出す。完成時には、拳心を上に向け、腕は肘を 沈めて弧形を保つ。 勁力は拳背 と前腕部に達する。 (転身搬ま聞極) 13)衝拳 (沖 拳)(チ ョンチュエン); 拳が腰の横で拳心を上に向けた状態から、腕を 内旋させて、前方に打ち出す。肩を沈め、肘を下 げる (肘 頭を下に向ける)。 拳は胸より高 くならな いようにし、拳眼を上に向ける。 勁力は拳面に達する。

(転身搬欄極)

13)衝拳 (沖拳)(チョンチュエン);

拳が腰の横で拳心を上に向けた状態から、腕を 内旋させて、前方に打ち出す。肩を沈め、肘を下げる (肘頭を下に向ける)。 拳は胸より高くならな いようにし、拳眼を上に向ける。勁力は拳面に達する。

(転身搬欄極)

基本四手法と参考四手法について
下記に述べる (1 )~(4)の掤・捋・擠・按は24式太極拳の動作に含まれる、基本的な手法であり、四正手とも言われる。

これに対して、(5)~(8)の採、挒、肘、靠(ツァイ、リエ、ジョウ、カオ)は四隅手とも言われ、24式太極拳の動作中にかならずしも含まれていないものもあるので、参考手法として述べる。
各々の手法の用い方を良く把握して行うことが大切であるが、また、用法にこだわるあまり、太極拳動作のバランスを損なったり、勁力が偏ったりしないように注意をはらうことも大切である。

(1)掤
腕を弧形|こして前範部を下から上に、前に支えるように推し出す。
前腕部の掌はこ菫特部の掌は口の高さを越えず、臂は掌よりも低くし、指先をこわばらせない。腕全体を丸く膨らませるように弧形を保つがこわばらせてはならず、また、ゆるめ過ぎて萎えたようになってもいけない。
掌心を内側に向け、指先を内側に向ける。後ろの手は抱掌から斜め下、後方に引き下ろして、腰の横で掌心を下に向け、指先を前に向ける。両腕で弧形を保つ。
頸力は、前の腕は前腕部の外側から掌背にあり、後ろの腕は掌根にある。
(左右攬雀尾の掤)

勁力について その②
棚勁について:
「棚」は広義では「一定のまるみがあつて、スプリングのような弾力性を有し、前進、後退、回転のいずれの動作にも含まれている螺旋運動(纏糸てんじ)を伴う太極拳の代表的な勁力」を言う。太極拳推手では、相手の力を外す(化す)ことも、弾くこともできる柔らかく、粘りのある棚勁を養うのであり、単に"突っ張ることを棚勁と誤解してはならない。

(2)捋 (リユイ);
前の腕は肘を沈めて、掌心を前方、斜め下に向ける。後の腕は、掌心が前の腕の前腕部の中程の位置で掌心を斜め上に向ける。
体重を後方に移しながら、両腕の肘、手首を沈め、両掌で前方、上から後方、下に向けて押さえるように引き寄せる。
相手の力を受け流して、引込み、相手の姿勢を崩す。腰の動きとともに引き寄せ、前の腕の勁力は前腕部の尺骨側に達する。
(左右攬雀尾の捋)

広義での「捋」は、前述の楼掌や欄掌にも含まれており、太極拳推手では、相手の「擠」にたいして「掤」しながら「捋」することが多い。

(3)摘(ジー);
片方の腕を胸の前で曲げて弧形にし、掌を内側に向ける。もう一方の腕の掌心を外側に向けて、指先を斜め上に向け、掌根を前の腕の手首の内側に触れるか触れない程度に軽く添えて、両腕で前に推し出す。
両腕を弧形にし、横に張り出すようにするが、肩を沈め、肘は手首よりやや低い位置に保つ。掌は口の高さを越えない。
勁力は、前の腕の前腕部の外側と、後の腕の掌根に達する。
(左右攬雀尾の擠)

(4)按:(アン)
両手で同時に下に、あるいは、前に推す動作。
両肩、両肘を沈め(肘窪が上向き、肘頭が下向き)脇下をゆったりとさせ、掌心を前に向け、両手首を坐碗にして、指先を上に向ける。両掌間の幅は肩幅より広くしないこと。
勁力は両掌の掌根に達する。
(左右攬雀尾の按)

「安は腰で攻めると言われるとおり、腰を安定させ、後足側の腰を前に良く送り、勁力を掌根に到達させる。

座腕について:
「座腕」(ツォワン・ざわん)の「腕」は中国語で手首のこと。
推掌や按の動作等で、動作の完成時に手首をゆるめて下に沈めること。「座腕」にすることで勁力を掌根に到達させることができるが、手首を無理に硬直させてはならない。
手首は全身の関節のなかでも最も柔軟性、可動性に富んだ関節の一つである。腕を柔らかく「虚」にした状態と、「座腕」にして「実」にした状態を使いわけることによって勁力が養われるのである。

5) 採(ツァイ);
手で相手の手や腕、肘をとり、上から下に押さえ、沈める手法。「持」に近く檎拿(チンナー。
相手の関節を攻める技術)にも変化する。持が合(合わせる)の勁法であるのにたいし、「採」は開、分(開く、分ける)の勁法である。
野馬分髪、自鶴亮翅、楼膝拗歩、手揮琵琶などや高探馬の下の手、また海底針の左手などにはいずれも「採」が含まれている。

(6) 挒(リエ);
横に推す手法(勁法)。挒には「捩」(転回する、転換する)の意味があり、「採」や「採」から変化して、横や斜めに推し出す勁法や、相手を後にひっくり返す勁法も含まれる。
偶力(作用線が平行で、大きさが等しく、方向が互いに逆な一対の力)を用いる勁法も「挒勁」である。野馬分係や手揮琵琶の前の腕が「挒勁」の代表的なものである。「採」と合わせて用いることが多く、また相手の勁の方向を変えるために用いることが多いので相手との距離があれば働かない。

17)肘(ジヨウ);
肘を旋回させたり、あるいは肘先を用いて前、後、横、上、下に働かせる勁法。手で攻撃するのにはやや近過ぎる時に用いられる。
「採」への反撃であったり、「採」や「挒」からの変化として現れることが多い。しかし、太極拳推手では一般には、危険防上のため、肘頭を使うことは避けている。
倒巻肱の下の腕や、単鞭の左腕の動作の中にも肘法は含まれている。

(8)靠:
「靠」には近づくの意味があるが、大極拳では「寄りかかる」、「もたれる」意味で使う。肩の前や横(三角筋部)あるいは肩の後(肩甲部)で押す勁法であり、背中やヒップ、大腿部が相手と密着した時には「靠勁」を用いる。野馬分業を「挒」の代表例と述べたが、手首撓骨側一肘の近くの上腕部を用いた場合は「挒勁」であり、もっと深く入った場合は「靠勁」である。このような「挒」からの変化と同様、「肘」や「採」を外されて、踏み込んで相手と密着すれば「靠勁」である。

前述したように(1)棚~(8)靠は用法上から勁法を分類したものであり、また、(5)~(8)は参考として述べた。
手法は、単独に手の動作だけを練習しても修得できない。必ず、身法を伴わせて練習し、徐々に理解を進めて欲しい。

勁力について その③
手法の項で、「勁力は….にある」、「….に達する」と述べていることについて、次の点を理解しておく必要がある。
1)勁力は、体重を移動し、腰を回転させるなどの体幹部の動きと、腕や掌の動きを組み合わせて生み出される。
2)「….にある」、「….に達する」とは、主に、勁力を相手に伝える部位のことであり、その意味では、力を働かせる場所=力点であり、また生み出された力が到達する場所=着力点を示す。
3)しかし、力点のある方の腕に、実際に力を伝えるためには、もう一方の腕の働きにも十分注意をはらわなければならない。
右手で「推掌」を行う時(左楼膝拗歩)は左手は掌心を下に向けて、肘を沈め、手首を座腕にし、右手が前に推し出す動作に協調させて、下に押さえる。下肢の重心移動や腰の回転と協調させて、両手の動作を行うことにより、勁力が右手、掌根に達するのである。
同様に、右手で「挑掌」を行う時(左下勢独立)は、下から1上にあがってくる右手にたいして、左手を上から下に押さえる動作、腰を左に回す動作をバランス良く組み合わせなければならない。
搬欄捶の動作では、右手が「搬拳」を行うのに合わせて、左手は上から下に押さえる動作を協調させなければならない。
4)本書では手法の説明として、力点のある手に限って勁力の部位を述べているが、実際に手法を行う場合には、もう一方の手の働きに注意をはらい、体幹部の動きと組み合わせて行わなければならない。

3.歩型
1)並歩(ピンブー);
両足を前に向けて揃えて、まっすぐに立つ。膝は自然に伸ばし、突っ張らず、また、曲げすぎない。
(図4)。
(起勢、収勢)

図4

2)開立歩(カイリーブー);
両足を平行に、肩幅|こ開き、足先を前に向けてまっすぐ立つ。膝は突っ張らず、また、曲げ過ぎない。
陳式大極拳の「八字間歩」と混同しないこと(図5)。
(起勢、収勢)

図5

3)弓歩(ゴンブー);
脚を前後に開いて、足裏全面を着地する。前脚の膝を曲げ、足先を前に向ける。
前脚の膝は足先を越えず、足先とほぼ垂直。後脚は膝を突っ張らない程度に自然に伸ばし、足先を約45~60°斜め前に向け、踵で床面を蹴るように、前に向かって踏ん張る。足裏の外側や踵を浮かさない。前脚は膝を曲げて床面を踏みじめる。
左足が前の場合を「左弓歩」と言い、右足が前の場合を「右弓歩」と言う。
また、左足と左手が前方にある弓歩を「順弓歩」(シュンゴンブー、じゅんきゅうほ)と言い、左足と右手が前方にある弓歩を「拗弓歩」(アオゴンブー、ようきゅうほ)と言う。同様に、右足と右手が前にあれば「順弓歩」、右足と左手が
前なら「拗弓歩」と言う。一般に、「順弓歩」の両足の横幅の間隔は10~15c m,「拗弓歩」の横幅は20~30㎝を基準とし体格や運動能力によって適宜調節する。また、動作によっては「順弓歩であっても「拗弓歩」の横幅をとることが必要なものもあり、また、その逆もあるので注意すること 図6(第2章を参照)。
(野馬分葉、楼膝拗歩、撻雀尾、単鞭、双峰貫耳、穿峻、閃通膏、搬欄極、如封似閉の定式時の歩型)

図6

勁力について その④
弓歩:
弓歩の動作では、後脚が前方に向けて蹴り出す力と、前脚が上から下に踏みじめる力の合力
(ごうりょく)として勁力が生み出され、勁力は脚部―腰一背―肩―腕一掌・拳の順に伝えら
れるのである。
一般には、弓歩の動作を述べる時に「後足の体重を前足に移して……」などと言い、本書第2
章でもそのように記述する。しかし、弓歩が完成した定式時に、前足に寄りかかり、後足が
「虚」の状態になつているのは誤りである。弓歩の完成時にも、後足が蹴り、前足が踏みじめ
ている状態が保たれていなければらない。

4)虚歩(シュィブー);
後脚の膝を曲げてしゃがみ、足先を約45°斜め前に向ける。足裏は全面着地。後脚で上体を支える。
前脚は膝をわずかに曲げて、足先をまっすぐ前に向け、足先(足裏の指の付け根)を軽く着地させる。
あるいは、踵を軽く着地させ、足先をわずかに浮かす。
両膝の方向は、それぞれの足先の方向と上下で一致させる。両足間の横幅は約5~10c mとし、体格に応じて適宜に保つこと
(図7)

――傷害防止のための注意事項―
虚歩では、後足の膝が足先の方向より内側に入ってしまわないように、特に注意すること。
初心者は、足先が必要以上に開いたり、上体が捩じれたりした結果として、このような状態が
`起きやすく、膝の故障の原因となる。正しく動作を行い、故障を防止するために、足先と膝の
方向を一致させるよう、厳格に要求すべきである。

5)仆歩(プーブー);
片方の膝を曲げてしゃがみ込み、膝と足先を斜め外側に向けて、上体を支える。もう一方の脚は自然に伸ばして、足先を内側に向ける。両足裏とも全面着地。曲げた脚の踵と、伸ばした脚の足先が一直線上にある。
左脚を伸ばした場合を「左仆歩」と言い、右脚を伸ばした場合を「右仆歩」と言う。
最も低い姿勢になるので、下肢の筋力と股関節や膝、足首の柔軟性が要求される。年齢や体
力に応じて無理なく行うこと。また、武術基本功などのストレッチングを行うことにより、徐々
に正しい歩型がとれるよう訓練すること。
(下勢独立の下勢の歩型)^ `

図8

6).独立歩(ドウリープー);
片足で自然に安定して立ち、膝を自然に伸ばし、足先を斜め外側に開く。もう一方の足は、膝を曲げて体の前方に腰の高さに引きあげ、下腿部を自然に下におろし、足先を膝より前に出さないように引き寄せる。
引きあげた大腿部は水平より低くならないように保つ。上体がふらつかないようバランスを保つこと。
(下勢独立の独立の歩型)
図9

4=歩法・腿法:
1)上歩(シャンプー):
片方の足の膝を曲げてしゃがみ、上体を支え、もう一方の足は、支えている足の内側を通って前方に踵から軽く着地させる。臀部を突き出したり、上体を傾けたり、上下に起伏させない。
踵を着地させる時は、 ドスンと落さない(『邁歩如猫行』歩みは猫の行くが如く)。バランスと均一な速度を保つ。最も多く用いられる基本的かつ主要な歩法である。なお、両足を連続させて一歩ずつ進めることは、特に「進歩」(ジンブー)と言う。
(左右野馬分髪、左右楼膝拗歩、左右撹雀尾、単鞭、右踏脚、双峰貫耳、左右穿綾、閃通膏、搬欄極)

図10

2)眼歩(ゲンブー):
重心を前足に移して、後足を前脚の踵に向けて半歩寄せる。前足の膝を曲げた状態を保ち、上体が上下に起伏したり、前後に傾いたりしないようにする。後足を引き寄せる時、前脚のひざを左右にグラつかせないこと。
後足は、足裏が見えるほど高くあげてはならない。後足を寄せ過ぎたり、前足の真後ろに寄せてはならない。
(白鶴亮翅、手揮琵琶、高探馬、海底針)
図11

3)退歩(トゥイブー);
片方の足で上体を支え、もう一方の足は、支えている足の内側を通って後ろに一歩さげて、足先から軽く着地させる。
倒巻肱の動作では、着地する足が虚歩の支え足になるので、虚歩の両足の横幅が適切にとれる位置に着地させ、足先を約45°斜め前に向けること。両足の横幅が開き過ぎたり、交差したりしないこと。足先が斜め前約45°より広く開くと、虚歩になった時に膝関節が内側に入りやすくなるので、特に注意すること。
後にさげる足は、足裏が見えるほど高くあげてはならない。上体を前に倒したり、上下に起伏してはならない。
(左右倒巻肱)
図12

4)側行歩(ツアーシンブー):
片方の足で上体を支え、もう一方の足をあげて横に一歩踏み出し、足先から軽く着地させる。
続いて、着地させた足の膝を曲げて重心を移し、支えていた足は踵からあげ、重心を移した方の足のそば(横幅は約10~20c m)に寄せ、足先から着地させる。
両足を平行に、両足先を前方に向ける。足先が開いた「八字脚」にしたり、両膝や両脚をぶつけたりしない。
また、上体を左右、前後に傾けたり、上下に起伏させたり、臀部を突きだしたりしない。
重心の移動は体の軸を揺らさないで、腰を回転させながらスムーズに行う。
(雲手)

図13

5)機歩(バイブー);
片方の足でL体を支え、もう一方の足をあげ、下腿部を内から外へと回し、足先を外に開いて、踵から着地させる。
(転身搬欄極)
図14

6)鐙脚(ドンジヤオ);
支えている足の膝をわずかにゆるめて安定して立つ。もう一方の足は、膝を曲げてひきあげ、下腿部も引きあげてゆく。続いて、膝を伸ばして、足先を立てて踵・からゆっくりと蹴り出してゆく。勁力は踵に達する。
競技では、踵が水平の高さより低い場合は減点になるが、高さは柔軟性や筋力の程度によるので、一般的には腰一膝の高さで行えればよい。
無理に高くあげようとすると、往々にして上体が後ろに反り、腹部が緊張した状態になったり、あるいは、支えている足の膝が曲がり過ぎて臀部が落ちた状態になる。
上体をまっすぐ保つことに気をつけ、年齢や体力に合わせて無理なく行うこと。
(右蹬脚蹟脚、転身左蹬脚)

図15

第2章 24式太極拳の学び方へ続く。